イプセ都立大学

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都立大学駅の苦悩(その1)】今では住民にも愛され、駅前の商店街も賑やかで、高級住宅地もある東急東横線都立大学駅はすこし訳ありの駅のようだ。なぜならば、開業すぐに都立大学駅となったわけではなく、いろいろと改称を繰り返した歴史がある。そこには、都立大学駅が抱える悩みがあるようだ。

都立大学駅の苦悩(その2)】 1927年に柿の木坂駅と開業した。府立高等前駅(1931年)、府立高等駅(1932年)、都立高校駅(1943年)と変わり都立大学駅となったのは 1952年であった。しかし都立大学の移転時やみなとみらい線への直通運転開始時などに改称の議論が巻き起こった。

都立大学駅の苦悩(その3)】しかし、その改称の危機は、住民のアンケートによって回避された。都立大学駅は地域と住民に深く浸透していたのであった。けれども地元の都立大学の付属高校が統合され「都立大学」を冠した校名が都立大学駅周辺で完全に消滅する可能性があり、都立大学駅の苦悩は続く。

【サクラ・ロード】駅から賑やかな商店街を抜けるとそこには街路樹が整備された通りに出る。イプセ都立大学はこの通りをまっすぐ進んだ先にある。道は平坦で歩きやすい。陽射しがのどかな休日の昼間は、多くの住民の散歩道となっている。春には満開のサクラで、この道もサクラ色に美しく染まっていく。

【その超時空的な外観とは】ゆっくりと桜並木を歩いていると突如現れるその外観に誰もが振り返る。シルバーの波打った金属で覆われた建物は、単なるデザインではなく、デザインを超えた時空的な要素を含んでいるようだ。実は、ここはリノベーション物件だったのである。だからこそ生まれる何かがある。

【吸い込まれそうなエントランス】この超時空的な建物のエントランスにも引き込まれるような、そして吸い込まれるような視覚的なトリックがある。超時空的なエントランスとでもいうべきか。その仕掛けは簡単なのだ。間接照明が壁のスリットに仕込まれているのである。それが時空の歪を生み出している。

【縦と横の空間に斜線を】エントランスホールは若干天井が低い。建物の構造的な耐久性を考えると、天井の高さを変更することは難しい。しかし、縦と横だけの退屈な空間にならないようにデザインの要素として斜線を加えている。もう別の建物ように思えるが、ある一点だけは昔の魂を引き継いでいるのだ。

【その魂を忘れてはいけない】エントランスのオートロックから最短距離でエレベータがある。そのエレベータの脇に、この建物の魂を見つけた。『緑ヶ丘シャトー』と書かれた看板である。この建物の昔の名前である。そこには築42年の風格がある。この建物の風雪に耐えた歴史を尊重しなければならない。

【エレベータに萌文字を発見】エレベータも新築当初の昭和43年の製品をメンテナンスや部品交換をしながら使い続けている。すこし狭く、昇降のスピードも最新式よりも遅い。しかし、最新式ではお目にかかれないお宝がある。それは階数を示す数字だ。その変形少女文字に萌える人も少なくはないはずだ。

【姿見で毎日の身だしなみチェック】エレベータで5階に降りる。エレベータホールからは外の風景がよくみえる。裏の中学校のグランドで運動に励む生徒たちの熱気と歓声に、あの頃の若い自分に戻れそうだ。玄関ドアを開けるとシューズクローゼットの扉が全面鏡となっており毎朝の身だしなみには最適だ。

【コンパクトキッチンが求められる理由(その1)】玄関を入るとすぐにキッチンがある。システムキッチンではなくシンプルなコンパクトキッチンである。キッチン用品を収納するところはないしガスも1口である。もし、このキッチンだけをみるとガッカリするかもしれないが、コンパクトには理由がある。

【コンパクトキッチンが求められる理由(その2)】コンパクトキッチンが求められる理由は、部屋の広さを確保するために必要最低限の大きさとなっている。ガス1口で何か問題があるのか、キッチン用品の収納は無印良品で揃えればよい。お部屋はトータルのバランスで評価することが求められているのだ。

【部屋の色は魅惑的な緋(その1)】部屋に入るとその色使いに驚かされる。実へ玄関部分からその前兆はあった。靴脱ぎ部分が赤に染まっていた。何かを期待させる赤。それが部屋にも使用されているのである。赤といっても様々な表現がある。「紅」、「丹」、「朱」、「緋」の中で近いのは「緋」である。

【部屋の色は魅惑的な緋(その2)】緋は、濃く明るい赤色を指す。緋の英語訳として使われるスカーレットにも同様の傾向がある。部屋の色使いは単なる遊びではない。そこには意図的な仕掛けがある。単調な空間をより魅力的に豊かにするためのきっかけとなる。それをどうするかは住み人に問われている。

【あえてのダウンライトと間接照明のみ】部屋がすべて赤という訳ではない。間接照明が設置してある壁と天井に効果的に使われている。この部屋の照明は、間接照明とダウンライトのみとなっている。これはシーリングライトを取り付けることによって、天井が低いことが強調され、狭く感じさせないためだ。

【収納が充実しすぎているので】デザイナーズマンションは時々空間を最大限取るために収納がないことが多い。しかし、この部屋はしっかりと収納スペースをとっている。しかし、その収納スペースはすこし大きめだ。そのために収納が使いやすいように中棚を設けているのは、住み手としては嬉しいはずだ。

【リファイン建築の真髄(その1)】この物件は、リノベーション建築ではリファイン建築と呼ばれている。青木茂氏によって提唱されたリファインとは、老朽化した建物の80%を再利用しながら、建て替えの60〜70%のコストで大胆な意匠の転換や用途変更、耐震補強を可能にする建物の再生技術である

【リファイン建築の真髄(その2)】青木氏が提唱するリファインは、意匠を新しくするのでは建築と環境への配慮から生まれたものである。しかし、今この物件にいると何か新しい建築がそこにあるように感じる。それは過去と現在と未来が融合する次世代の建築を私たちに提示してくれているようだ。(完)

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