モデュロール代々木公園

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お昼の電車はすいていた。昼食後だったのですこし眠かったが、目的の駅に着いたので、気だるい体に鞭を打ってなんとか電車の扉が閉まる直前に降りることができた。駅のフォームはむっとするほど蒸し暑かった。じわっと背中に汗を感じながら1番出口に向かった。多分エスカレータは修理中だったはずだ。

エスカレータの修理は終わっていた。新しくなったエスカレータを利用して改札口に向かった。改札口からは地上階から心地よい風が吹いてきた。私はなんとなく懐かしい気持ちになった。そういえば学生のときはよくこの駅を利用したものだった。地上階につくと学生のときと変わらない風景が広がっていた。

学生のときよく通った牛丼屋はまだ元気に営業していた。行列もできていた。急い会社を出てきたので、物件の場所がうろ覚えだった。私はコピーした地図を広げて場所を確認してみた。あぁ〜、あそこかぁ。私が通っていた学校の真裏であった。太陽が南中に近づいていた。今日は暑く長い一日になりそうだ。

私が通っていた学校のまわりは、閑静な住宅街であり、高級住宅街でもあった。あの堺正章が住んでいるという噂もあった。また、フレッシュネスバーガー1号店があるというのは有名な話であった。不景気でも街の風景は変わっていなかった。しかし学校は寂れていた。なぜなら廃校が決まっていたのである。

目的の物件は学校の真裏にあって、学校を迂回していくことも考えたが久しぶりに学校の中に入ってみたくなった。都心の学校としては珍しく開放的で地域の人々も図書館を利用できるようになっていた。打ち放しコンクリートの講堂は、昔と変わらずその威厳を保っていた。セミの声が懐かしく心地よかった。

その物件は学校の真裏であったが、裏通りをはさんでいたので学生時代にはその存在には気がつかなかった。非常に閑静な住宅街で、一度は住んでみたいと学生時代によく思った。その物件の外観は、打ち放しコンクリートにアクセントとしてタイル張りが施してありながらも、他の建物とは違う何かを感じた。

その外観はパリの裏路地にあるような過去と現代が融合したような表情が豊かな印象であった。たぶんテラスがないことが、建物に表情を与えているのだと私は感じた。敷地内には緑が配され、ちょっとしたオアシスとなっている。エントランス部分は掃除がしっかりとされており、住民の意識の高さが伺えた。

エントランスはオートロックになっている。とてもかわいらしい扉であった。ガチャンと鍵が開いた。扉をくぐると何かに導かれるように2階へと向かった。中廊下形式で両側に部屋がある。中廊下がしっかりと廊下幅がとれているので、両側の部屋の扉があたることはない。私の目的の部屋は角部屋であった。

中廊下の特徴であるが、すこし暗い。日中であったが、日の光が届かず暗い。すこし閉鎖的なので、空間に独特な雰囲気を醸し出していた。しかし、その角部屋の玄関ドアを開けたときに、私のすこし沈んだ心が晴れやかになった。なぜならば、そこには情熱的な真っ赤な扉が私の帰りを待っていたからである。

その真っ赤な扉を開けるとそこにはワンルームの部屋が広がっていた。部屋の床はフローリング。壁はクロスとなっているところもあるが外壁と同じ打ち放しコンクリートで仕上げている壁もある。その打ち放しは建物が生まれたときのままのような新鮮さを保っていた。ザラっとした質感もよく手に馴染んだ。

コンクリートの表面には、Pコンと呼ばれる穴がある。これは、型枠材を固定するためにあける穴であるが、その穴のピッチはさまざまであるが、450ミリのピッチが主流である。その均等に配置されたPコンは、必然的でありながら、ある意味芸術的であり、日本の建築施工の進化と職人の技の結晶である。

天井にはライティングレールがあり、照明器具がついている。その照明器具は蛍光灯ではなく、電球色のスポットライトなので演色性が高い。もし、ここが蛍光灯あったならば、壁の打ち放しコンクリートの表情は白々しいものとなっていただろう。スポットライトによって、打ち放しコンクリートは見違える。

打ち放しコンクリート仕上げとなっている壁とクロス仕上げの壁と2つの表情がある。それは単にデザインでやっているわけでないことが分かった。クロスは外部に面する壁に施されている。なぜならば外部に面するところは結露が問題になる。だから結露しないよう断熱処理をおこないクロスで仕上げている。

外観のすっきりとした印象は、どこからくるものなのかというのは外にいるときは分からなかったが、部屋に入ってその答えがわかった。それはバルコニーがないのである。私はそれは最初欠点だと感じた。でも、その考えが間違っていることをすぐに気づいた。建物の外観の美しさを保つためだったのである。

部屋ばかりを気にしている自分がいた。水周りも大事だ。部屋からはキッチン、トイレ、お風呂は見えない。だからこそ部屋が広く感じるのであった。キッチンは一枚壁をはさんで奥まったところにある。キッチンの色は赤で統一されており、食欲が湧いてきそうだ。トイレととお風呂は別の部屋にあるようだ。

トイレとお風呂は赤い扉で仕切られている。その扉を開けると私の目の前にあるものが飛び込んできた。それは独立の洗面台である。それが通常の洗面台とはまったく違う。私が今まで使っていたもの、そして、マンションで使われているものとして想像できる洗面台を遥かに上回る存在感をそれは出していた。

洗面台は清潔感がとても重要である。だからホワイトがよく採用されている。しかし、そのホワイトの塊は意外と大きく感じてします。けれども、この洗面台は清潔感がありながら、その塊の威圧感を感じない。なぜならばガラスで作られた洗面台だったのである。その透明感は疲れた心を癒してくれるだろう。

すべての電気を消して、私は外に出た。結構長い時間いたらしい。外はだいぶ陽が傾いていた。建物の外観が外部照明で照らされている。外壁に張られたタイルに微量に含む鉱石によってキラキラと輝いている。その輝きはきっと私の明日の活力となると感じた。マンションの隙間から見える夕日が美しかった。

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