ヴィラ・カテリーナ

http://www.kkf.co.jp/design/tokyu/vill_cater/

駅の改札をくぐると目がチカチカするほど広告が張り出している雑居ビルだった。駅ビルとなっているので、その雑居ビルは人であふれていた。改札近くのラーメン屋さんには、この真夏中で行列ができていた。私をその行列をよそ目に半地下となっている改札口から外に出た。外の大通りには車が溢れていた。

待ち合わせの時間にはまだすこしあった。ちょっと駅周辺を歩くことにした。商店街らしきものはあまりなく、ファミリーレストランとファストフードのお店しかなく、すこし寂しい印象を受けた。反対側の出口のほうが栄えているようだった。もう一度駅に戻ろうとしたときに見覚えるのある笑顔を見つけた。


彩と会うのは1年ぶりだった。同期の入社であったが彩は、誰よりも優れていたので、同期の仲間の誰よりも出生頭となっていた。その彩に対して海外の転勤の辞令がでるのは当然のことであった。優秀な人材は若いうちに海外転勤で実績をつむことが出世への最短ルートであった。その辞令は1年前であった。

突然の辞令だったので、送別会などやる時間もなく、別れの挨拶もなく彩はアメリカに行ってしまった。その後は特に連絡は取っていなかった。彩のアメリカでの活躍は会社の社報でよく目にした。私は自分のプロジェクトも軌道に乗り始めていたので彩のことを忘れていた時に、私はそのメールを受け取った。


メールの内容は「急に日本に戻ることになったので部屋を探しているので一緒に探してほしい」とのことだった。私は特に物件に詳しいわけでもなかったのでなぜ私に物件探しを頼んできたのか、その真意が掴めなかった。彩は独身であったので社宅という選択肢を勧めたが、彩のなかでその選択肢はなかった。

早速物件を探すことにした私は、間取り、賃料、エリア、築年数など、彩に聞かなければ分からないことが多かった。彩は日本に戻る準備で忙しく、なかなか連絡が取れなかった。仕方ないので、私になりに色々と考えていた。私はある出来事を思い出した。それは、あるプロジェクトの打ち上げのときだった。


その打ち上げは、ある駅ビルの焼肉屋で行われた。その日の彩はいつもよりも大人しかった。たぶん、既に辞令が出ていたのだろうと今なら推測できる。そのときに彩は駅ビルの窓ごしで外を見ながら、「閑静な住宅街に住むのが夢なんだ」ということを語っていた。私はそのときの駅周辺で物件を探してみた。

その物件探しは、意外とすぐに見つかった。物件の情報を検索する時に、物件条件を入力するのはおっくうだ。私は、ポータブルサイトのキーワード検索をすることにした。そうすると簡単に物件にありつけることが出来た。早速、その物件をホームページで掲載している不動産会社に電話してみることにした。

まだその物件は募集中であった。最近の物件探しは楽だし物件の内見も電話一本でエントランス前で待ち合わせで簡単にできてしまう。そのような思い出話や物件探しのことを彩といろいろ話しながら、物件を目指して二人は歩き始めた。物件までは緩やかな下り坂で途中にある公園では犬が水遊びをしていた。

縦に長細い都心にありがちな公園を抜けて、住宅街に入っていった。道幅は狭いが車の通行には問題なさそうだ。周辺は戸建の住宅や低層のマンションがほとんどで非常に静かな場所である。物件はすこし坂になっている中腹に建っている。エントランスの横には駐車場があり、その横には大木が鎮座している。

その大木クスノキであることが分かった。全体に独特な芳香を放つことから、「臭し」が「クス」の語源となった説や、防虫効果から元来魔除けに使ったくす玉の語源も説もある。この物件は樹齢400年のクスノキの守られているのであった。クスノキの緑と外観の白タイルのコントラストが鮮やかであった。


我ながらいい物件を選んだと自慢げに彩を見ると、すでにエントランスから中に入っていった。私もその後を追った。エントランスは一般的なマンションように閉鎖的ではなく、庭園のように開放的であった。共用廊下となる場所もテラスのように広くなっていて、オシャレはテーブルとチェアが置いてあった。

中廊下や階段には秋を感じさせる乾いた風を感じることができた。彩はすでに部屋の玄関までたどり着いていた。玄関の共用廊下からは閑静な住宅街を一望できる。物件の近くの戸建の屋上に設置してあるソーラーパネルがキラキラと輝いている。彩と私は一緒に玄関ドアを開けた。そこは、広い玄関があった。

玄関には十分な収納スペースがあり、一人暮らしには十分すぎると感じた。聞くところによると、ここの物件はほとんどが二人入居されているらしい。彩は玄関でハイヒールを脱ぎ、キッチンへと向かっていった。明らかにキッチンはファミリータイプのシステムキッチンで、作業スペースも十分にとれていた。

彩がキッチンに対して興味をもっていることが私は不思議だった。私にとって彩はキャリアウーマンで料理することに対して、興味はないと思っていた。キッチンはカウンターテーブルがあり、朝食であればカウンターテーブルでとることできて、使いやすいようになっている。キッチンの背面には収納がある。


キッチンの収納は、食器棚がいらないぐらいの十分の大きさがあった。彩もその大きさに納得していた。リビングルームは角部屋なっているので窓を開けるととても風通しがよい。彩はリビングルームで家具の配置をいろいろと考えている。とても楽しいそうだが、彩の話の中身は明らかに二人暮らしのようだ。


彩が二人暮しを考えていることは意外だった。しかし、彩が誰と暮らすかということにまったく興味がなかった訳ではなかった。彩に聞き出そうと思っていたらベッドルームに向かってしまった。その部屋は日当たりが良く、収納も充実していて使いやすそうだった。その時、彩からの突然の発言に私は驚いた。


「ここに決めるよぉ」と彩の言葉に驚いたのが、私が探した物件を彩が気に入ってくれて嬉しかった。だから彩の同棲相手のことについては、深入りして聞くことはやめた。早速、彩は入居申込書に記入を始めていた。私はテラスで外を眺めていると、彩が近寄ってきてこうつぶやいた。「一緒に暮らそうよぉ」

ヴィラ・カテリーナ
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