spread

http://www.kkf.co.jp/g/tky/liv/spread/

等々力渓谷を守れ(その1)】spreadは東急大井町線「等々力」駅と「尾山台」駅の中間に位置している。等々力駅は将来地下化する計画があるらしい。田園都市線複々線化並びに混雑緩和のために追い抜き設備を設置するのが目的であり、老朽化した駅舎も改築されバリアフリー施設が設けられる。

等々力渓谷を守れ(その2)】しかし、駅の地下化によって当駅付近にある東京23区内で唯一の渓谷である等々力渓谷の湧水が妨げられ、渓谷の自然が破壊されるとの懸念から工事反対の声が上がった。駅周辺住民は「大井町線に急行は不要」の観点からも反対を行っており駅周辺にはのぼりが立っている。

等々力渓谷を守れ(その3)】等々力渓谷とは、谷沢川が等々力付近の国分寺崖線を流下する際に削り形成した渓谷で周辺で宅地化が進んだ今もなお森林が残り斜面より湧水が見られる。東京23区唯一の渓谷として東京都指定名勝となっており、渓夏は周囲より涼しく、近隣住民に憩いの場を提供している。

【黒は何にも染まらない(その1)】自由が丘から二子玉川行きの東急大井町線に乗って、何気なく外の街並みを見ていると、突然目の前に黒い物体が現れる。一瞬の出来事だったので、なにかの見間違いかと思い、等々力駅に到着した電車を降りた。等々力駅から歩くこと3分。なかなか建物が見当たらない。

【黒は何にも染まらない(その2)】建物の黒い影のようなものが見えた。その近くまできて、やっとspreadの本性を見ることができた。電車の中で一瞬現れた黒い物体こそがspreadだったのである。その黒光りする外観は他のどんな色にも染まらないという強い個性を発揮しているように感じた。

【黒い外観の効用】spreadの敷地は、すこし特殊なところにある。それは、目黒通りと東急大井町線が交差する場所であり、線路沿いの敷地である。交通量の多い目黒通りで発生する排気ガスとと電車による粉塵のことを考えると、白い外壁では汚れが目立ってしまうが、黒い外観では汚れが目立たない。

【必殺!真空コンクリート舗装(その1)】spreadの建物は、上空からみるとコの字型になっている。道路からかなりセットバックされており、黒い外観が街並と横並びとならないように、影のような存在を醸し出している。そして、共用廊下は坂道の滑り止めとして使う、真空コンクリート舗装である。

【必殺!真空コンクリート舗装(その2)】真空コンクリート舗装は、滑り止めとして発明されたものではなく、コンクリートの養生時間を短くするためであった。特徴的なリングは、規則的でデザイン的にも面白い。spreadは、さらにリングをくり貫き、芝生を植えているので、もっと個性的で面白い。

【共用廊下から見上げた風景】スチールメッシュとフレームの門扉をくぐり、共用廊下に入る。両側に黒い壁があるのは、日常では味わうことのできない非日常を演出してくれる。さらに行き止まりとなっている壁はガラス張りとなっており、打ち放しの階段がみえる。階段をどのように演出するかも楽しみだ。

【階段は上り下りするだけの場所ではない】玄関ドアをあけた。玄関ドアをあけるとすぐ階段がある。見上げると3階までの自分専用の階段がそこにある。3階までの階段は上り下りするだけなら、たぶん苦痛となるだろう。しかし、ここは自分専用の階段だ。自分なりのディスプレイをしても、きっと面白い。

【ブラック→グレー→ホワイト】黒い外観から黒い玄関ドアを開けて、グレーの打ち放しコンクリートと階段を上った先には、白い部屋が広がっている。世間の荒波に揉まれて、黒く汚れた心と体が、徐々に浄化されていくような不思議な感覚になる。ホワイトルームは住む人のカラーを受け入れてくれるのだ。

【P コンフックって何ですか(その1)】打ち放しコンクリートには、小さな穴がついている。これは施工するときに型枠となる材料を固定するために必要となるものであり、建築家の意図的なデザインではなく、職人が生み出したデザインである。その小さな穴は、通称でPコン(ピーコン)と呼ばれている。

【P コンフックって何ですか(その2)】Pコンは規則正しく並んでいるために、デザイン的に美しいだけでなく、何かの用途に使ってみようと考えれたのがPコンフックである。Pコンのねじ穴に取り付けるだけで、ハンガーかけが出来てしまうのだ。この部屋では複数のPコンを使って棚を取り付けている。

【隠すだけが収納ではない(その1)】一昔のデザイナーズマンションといえば、収納がないというのがよく言われていた。最近では収納も考えられている。しかし、普通の収納では話が済まないのが、デザイナーズマンションである所以であるのだ。そもそも収納には扉が必要なのか、ということから始まる。

【隠すだけが収納ではない(その2)】spreadの部屋にはL型の黒いパイプが天井からぶら下がっている。何か前衛芸術的なモニュメントかと思えるようなものである。実はこれが収納なのである。白い部屋は、全ての色を受け入れる。だから、衣服の色も吸収していくのである。色は空間を豊かにする。

【ちょっと色気のあるキッチン】シンプルなつくりの部屋なので、キッチンもシンプルでまとめたいところである。しかし、すべてを白でまとめてしまうと空間としての色気がない。そこで、キッチンの側面には、木調のイミテーションを施している。それが本物か偽物かは関係ない。ちょっとした遊びである。

【クリエイティブな空間をつくるために(その1)】spreadに訪問した人たちは、住まいの可能性に触れたはずだ。もっと自由に住まいを考えることの楽しさに触れたはずだ。この空間を作りあげるためには、ひとりの独裁者的な建築家だけでは出来ない。多くのその道のスペシャリストが関わっている。

【クリエイティブな空間をつくるために(その2)】spreadには、建築設計を担当したビルディングランドスケープのもとに、外構デザインに野老朝雄氏、照明デザインにリスポンシブ・エンバロイメント、家具デザインに大原温氏が集まり、エキサイティングなコラボレーションが実現したのだ。(完)

http://www.kkf.co.jp/g/tky/liv/spread/